IT導入の進め方

サーバー移転はいつ決めるか|困ってから動くと選べない

サーバーの移転は、きっかけの種類によって急ぎ方も対応も変わります。移転で解決する問題としない問題の分け方、移らないほうがよい状況、移れる状態かどうかの点検、サイトの外側でつながっているものの洗い出しを整理しました。

公開 更新 カテゴリ IT導入の進め方 読了目安 約8分

編集 小さな会社のIT実務編集部

既存サーバーと移行先を並べて作業計画を確認する担当者
小規模オフィスの機器とアカウントを管理する編集イラスト

この記事の適用範囲

対象
現在使っているサーバーを移すかどうかを判断したい小規模事業者
読了後の状態
移転の要否とタイミングを自社で判断でき、動く前に揃える情報が分かる状態

サイトが半日止まった翌日の会議で、サーバーを移そうという話が出ます。前の日に困った人がその場にいるので、反対は出ません。移転先を調べ始めて数日、見積もりを取る段階になって、作業に必要な情報が社内の誰の手元にもないことが分かります。契約先は分かるが管理画面に入れない、メールも同じ契約に載っているが誰がどの設定をしたのか分からない、フォームの送信先が古い担当者のアドレスのままになっている。

止まった直後は、移転の判断をするには最も向かない時期です。原因が特定できていないうえ、比較する時間もなく、決めた後の作業を担当する人の予定も空いていません。それでも、この時期にしか話が進まないという事情もあります。

ここでは、移す手順ではなく、移すかどうかと、いつ動くかの判断を扱います。作業の進め方は法人向けレンタルサーバーの選び方に切り替え前後の注意点としてまとめてあるので、判断が固まってから読んでください。

移転を考え始めるきっかけは5つあり、急ぎ方が違います

同じ「移転を検討する」でも、きっかけによって必要な対応がまったく違います。まず自社がどれに当たるかを確認してください。

きっかけ 移転で解決するか 先にやること
表示が遅い、たまに止まる 原因による。自社のページ側が原因なら解決しない 症状の切り分け。全ページか特定のページか、常時か特定の時間帯か
障害の復旧が長引いた、サポートの回答が要領を得ない 解決する。事業者の運用そのものが条件に合っていない 起きた事象と対応の記録を残す。次の候補に同じ質問をするため
提供終了、プランの廃止、料金の改定 選択の余地が小さい。期限までに動く 通知の期限を確認し、契約更新月と解約の申し出期限を調べる
制作会社との関係が終わる、担当者が辞めた サーバーの問題ではない。名義と権限の問題 契約名義と管理画面の権限を自社に戻せるかを確認する
必要な機能が使えない、メールを分けたい 解決する。ただし移転先の型を選び直すことになる 要件を量の問題と可否の問題に分ける

いちばん多いのは1行目ですが、これは移転の理由としては弱いものです。原因が自社のページ側にあれば、環境を変えても同じ症状が出ます。切り分けの順番は共用サーバーとVPSの選び分けに整理しています。

4行目は、移転そのものよりも名義の回復が先に来ます。名義が相手側のままだと、移転先を決めても手続きができません。

相手の都合で期限が決まるきっかけだけは、別の扱いにします

3行目、つまり提供終了や仕様変更、料金の改定は、他と性質が違います。自社の準備が整っているかどうかと関係なく期限が来るからです。この場合、比較に時間をかけると選択肢のほうが先に消えます。

問題になるのは、通知に気づくのが遅れることです。この種の案内は、契約時に登録した管理者の連絡先に届きます。そこが退職者の個人アドレスのままだったり、迷惑メールとして振り分けられていたりすると、期限の直前に取引先からの指摘で知ることになります。連絡先を共有できるアドレスにしておく理由の1つがこれです。アドレスの設計は独自ドメインのメールを導入する手順と決めることで扱っています。

もう1つ、期限は相手側にだけあるわけではありません。いまの契約にも解約を申し出る期限があり、動かせる日程はこの2つの期限に挟まれた範囲だけです。相手の期限に間に合わせようと急いだ結果、自社側の申し出期限を1日またぐと、使わない契約の支払いだけが残ります。先に調べるのはいまの契約のほうです。

移らないほうがよい状況が4つあります

移転は、判断としては「動かない」を選べます。次の状況に当たるなら、いま動かないほうが結果的に早く終わります。

障害の直後で、原因が特定できていない。 原因を確かめないまま移すと、同じ症状が新しい環境でも出ます。そのうえ、旧環境を解約した時点で調べる材料が消えるため、次に起きたときも原因が分かりません。

サイトを作り直す予定がある。 移転と作り直しを別々にやると、同じ確認作業を2回行うことになります。作り直しの時期が1年以内なら、そこに合わせるほうが手数は減ります。作り直しの方式から決める場合は小さな会社のホームページは何で作るべきかを先に読んでください。

作業する人が決まっていない。 移転は、切り替えた日で終わりません。切り替え後の数日間、両方の環境を見る人が必要です。担当が決まらないまま日程だけ先に決めると、確認が抜けたまま旧環境が解約されます。

契約の名義が自社にない。 移転先を決めても、いまの契約を止める手続きができません。名義を戻すほうが先です。

移れる状態かどうかは、5つが手元にあるかで決まります

「困ってから動くと詰む」という言い方の中身は、この5つです。移転を決めていなくても、いま確認できます。

手元にあるか 無いときに起きること いま確認する方法
サーバーの管理画面に入れる 見積もりに必要な現在の構成が出せない 実際にログインしてみる。パスワードの再設定通知がどこに届くかも確認する
ドメインとDNSの管理画面に入れる 切り替え作業そのものができない 同じくログインを試す。登録者名義もこの画面で分かる
サイトのファイルとデータベースを自分で取り出せる 移転先が決まっても中身を持ち出せない 管理画面に一括で書き出す機能があるかを見る
メールの置き場所と、過去のメールの扱いが分かる 移転作業の対象から漏れ、切り替え日に受信が止まる サーバーと同じ契約か、別のサービスかを確認する
契約情報(更新日、支払い方法、名義) 解約の申し出が間に合わず、費用が重複する 会計データで毎月または毎年の引き落としをたどる

5つのうち1つでも埋まらないなら、移転の検討より先にそこを埋めます。埋める作業は移転しない場合にも無駄になりません。契約している事業者を変えないとしても、担当者が辞めた日に同じ問題が起きるからです。

管理画面に入れるかどうかは、記録を見るのではなく実際にログインして確かめてください。記録が残っていても、二要素認証の受け取り先が退職者の携帯になっている、という形で止まります。

止まるのは、たいていサイトの外側でつながっているものです

移転の作業計画は、サイトのファイルとデータベースを中心に組まれます。実際に切り替え後に止まるのは、その外側です。移転を決める前に、次を書き出してください。書き出す作業自体が、移転にかかる工数の見積もりになります。

  • ドメインで受けているものの一覧。 サイトだけでなく、メール、送信ドメイン認証の記録、外部サービスの所有権を証明するための記録も同じところに書かれています。移転で書き換える対象を1つでも落とすと、その機能だけが静かに止まります
  • 外部サービスとの接続。 予約、決済、地図、フォームの配信、メール配信、会計や在庫との連携。それぞれ接続先の設定を持っているため、環境が変わると設定のやり直しが要ります
  • IPアドレスで許可されている接続。 取引先のシステムに接続するとき、こちらのIPアドレスを登録してもらっている場合があります。移転でアドレスが変わると、その接続だけが拒否されます。事前に相手側へ変更を依頼する時間が必要です
  • 決まった時刻に走っている処理。 データの取り込み、バックアップ、通知の送信。管理画面を見ないと存在に気づきません
  • 証明書の種類と発行元。 自動更新の仕組みが移転先にあるか、企業情報の確認を伴う証明書を取り直す必要があるかで、準備期間が変わります

このうち3つ目と5つ目は、準備に相手や第三者の時間が必要です。移転の日程は、この2つから逆算します。

移転を依頼するときは、範囲を3つの言葉で確認します

外部に依頼する場合、金額よりも範囲で差が出ます。次の3点を、口頭ではなく文面で確認してください。

メールが作業範囲に入っているか。 見積書に「サイト移設一式」とだけ書かれている場合、範囲は口頭の説明でしか決まっていません。入るのか入らないのかを、返事ではなく見積の項目として書き出してもらってください。過去のメールの移行は、さらに別の項目になります。

切り替え後、旧環境をどのくらい残すか。 残す期間の費用をどちらが持つのかも決めます。旧環境を早く解約すると、取りこぼしたメールやフォームの送信を後から拾えなくなります。

切り替え後の動作確認を誰がやるか。 フォームの送信、決済の完了、メールの送受信、会員向けのページ。これらは業務を知っている人でないと確認できません。作業者が確認できるのは、ページが表示されることまでです。

失敗したときにどう戻すかも、同じ文面に入れてもらいます。戻す手順が書けない相手には任せないほうが安全です。

次にやること

移すかどうかは、まだ決めなくて構いません。先に確かめるのは、決めたときに動けるかどうかです。サーバー、ドメイン、DNSの管理画面に、実際にログインしてみてください。記録を見るのではなく、入れるかどうかを試します。

3つとも入れたなら、移転はいつでも判断できる状態です。急いで決める必要はありません。1つでも入れなかったなら、その回復が最優先です。事業者を変えるかどうかより先に、いまの契約を自社の管理下に戻す作業になります。

契約情報を1枚にまとめる項目は法人向けレンタルサーバーの選び方にあります。ログインできることを確認したうえで、その1枚を埋めてください。

よくある詰まりどころ

「移転は無料で代行します」と案内された

確認するのは対象範囲と、範囲外のものに誰が気づくかです。自動で移す仕組みほど対象は限定されていて、外れたものは黙って残ります。移し終えた後に何が動いていないかを照合するのは自社の作業です。そして、代行が無料であることは移るかどうかの判断材料になりません。移るかどうかは、記事の前半で挙げたきっかけの側で決まります。

移転すると検索での見え方が悪くなるのではないか

ページのアドレスが変わらないなら、構造そのものは変わりません。影響が出るとすれば、切り替え中に一時的に見えない状態が続いた場合と、移転を機にページの構成やアドレスを変えた場合です。移転と作り直しを同時にやると、後から原因を切り分けられなくなります。

旧サーバーを解約する前に、何を取り出しておくべきか分からない

サイトのファイルとデータベースのほかに、過去のメール、フォームから届いた受信の履歴、アクセス記録、証明書の情報、DNSに書いてあった内容の控えを取ります。特にDNSの内容は、解約後に確認する手段がなくなります。切り替え前に画面をそのまま保存しておくと、後で照合できます。

社内に作業できる人がいない

依頼すること自体は妥当な判断です。任せる範囲と、自社に残すものを分けてください。自社に残すのは、契約の名義、支払い、管理者の権限、そしてデータを取り出す手段です。この4つを渡してしまうと、次に困ったときに同じ相手にしか頼めなくなります。