ツールの選び方
共用サーバーとVPSの選び分け|保守を続けられるかで決まる
共用サーバーとVPSの差は性能ではなく、どこから先が自社の作業になるかに出ます。型ごとに発生する保守作業、遅い・止まるという症状の切り分け、共用で足りなくなる条件、社内の体制を確かめる順番までを整理しました。
この記事の適用範囲
- 対象
- レンタルサーバーの契約や見直しで、共用型とVPSのどちらにするか決めかねている小規模事業者
- 読了後の状態
- 型ごとに発生する保守作業を把握し、自社の体制から型を選べる状態
サイトの動きが重いという話が社内で出て、制作を頼んでいる会社に相談すると、VPSへの移行を勧める返事が返ってきます。提案書には、共用サーバーは同じ機器を使う他の利用者の影響を受けるという説明と、VPSなら割り当てられた資源を専有できるという説明が並んでいます。どちらも間違ってはいません。
それでも判断できないのは、提案書に載らない部分があるからです。移した後、基本ソフトの更新を誰が当てるのか、表示が止まったときに誰がログを読むのか、その人が辞めたら誰が引き継ぐのか。提案書に書かれるのは移行が終わるまでの作業で、その先は自社の仕事になります。
共用型とVPSの違いは、速度や容量よりも、この境界線がどこに引かれるかに出ます。ここでは型ごとに実際に発生する作業を並べ、社内の体制から選ぶ順番で整理します。個別のサービス名と料金は扱いません。
差が出るのは、どこから先が自社の作業になるかです
サーバーは層でできています。機器と回線があり、その上に基本ソフト(OS)があり、さらにWebサーバーやデータベースといったソフトウェアが載り、いちばん上に自社のサイトが置かれます。共用型とVPSの違いは、この層のどこに事業者と自社の境界線が引かれるかです。
共用型では、境界線は自社のサイトのすぐ手前にあります。事業者が用意した環境の上に、決められた形でファイルを置く形になります。そのぶん、設定を変えられる範囲は管理画面に出ている項目だけです。
VPSでは、境界線は機器と回線のすぐ上にあります。基本ソフトから上はすべて自社の管理下に入り、その代わり何を入れても構いません。「VPSは自由度が高い」という説明は、この境界線の位置を言い換えたものです。自由度は、それを使う人が社内にいて初めて価値になります。
| 発生する作業 | 共用型 | VPS(自社で管理する) | VPS(管理を付ける・委託する) |
|---|---|---|---|
| 基本ソフトの更新 | 事業者が行う。社内の作業としては発生しない | 自社で計画して当てる。再起動する時間帯も決める | 委託の範囲に含まれるかを契約で確認する |
| Webサーバーやデータベースの設定 | 管理画面に出ている範囲だけ変えられる | すべて自社。設定を誤れば表示が止まる | 初期の構築は任せられる。以後の変更は依頼になる |
| SSL証明書の更新 | 自動更新の仕組みが用意されていることが多い | 仕組みを自分で入れ、動き続けているか確認する | 範囲に入っていれば任せられる |
| 表示が止まったときの一次切り分け | 障害情報を確認して復旧を待つ | ログを読み、どの層で止まったかを特定する | 連絡すれば調べてもらえる。受付時間の制限がある |
| バックアップ | 事業者の仕組みを使う。範囲と復元手段を確認する | 取得も復元も自社。保存先も自分で用意する | 取得は任せられる。戻すかどうかの判断は自社 |
| 不正アクセスへの対応 | 事業者が遮断まで行うことがある | 検知も対処も自社 | 監視の範囲を契約で決める |
| 相談できる範囲 | サポート窓口。事業者が用意した環境まで | 機器と回線までが事業者。その上は自社の責任 | 委託先の範囲まで。範囲外は自社に戻る |
読み取ってほしいのは、行ごとの優劣ではなく行の数です。共用型で「発生しない」と書いた作業が、VPSではすべて誰かの仕事になります。増えるのは月額ではなく、担当者の予定です。
VPSにすると、毎月と数年に一度の作業が増えます
具体的に何が増えるのかは、発生する間隔で分けると見えます。
毎月ある作業は、公開された更新の確認と適用、再起動が必要な更新をいつ当てるかの調整、ディスクとログの容量の確認、バックアップが実際に取れているかの点検です。1回あたりは短くても、止めると溜まります。溜まった更新をまとめて当てると、今度は一度に壊れます。
予定を立てられない作業は、ソフトウェアの弱点が公表されたとき、不正なアクセスが増えたとき、そして障害が起きたときです。これらは他の業務の都合に合わせて来ません。来た日に本業を止めて対応することになります。
数年に一度の大きい作業が、判断からいちばん抜けます。基本ソフトにはサポート期限があり、期限を過ぎると更新が提供されなくなります。期限が来たら、新しい環境を作って中身を載せ替えることになり、作業量はサーバーの移転とほとんど変わりません。共用型ではこれを事業者が引き受け、利用者には設定の見直しをお願いする案内が届く程度で済みます。
契約した年にはこの作業が来ないため、見積もりにも社内の議論にも入りません。数年後、当時の担当者がいない状態で来ます。
遅い・止まるという症状は、型を変えても直らないことがあります
移行を考える入口はたいてい症状です。ただ、症状と原因はつながっていません。先に切り分けます。
- 遅いのは全ページか、特定のページだけか。特定のページだけなら、そのページに載せているものが原因です
- 遅いのは常時か、特定の時間帯だけか。時間帯が決まっているなら、同居する利用者の影響か、自社側で動く定時処理を疑います
- 画像や動画の容量、外部から読み込んでいる部品(地図、書体、解析、広告、チャット)の数
- 拡張機能の数と、データベースに溜まった履歴の量
- 見ている人の回線と端末。1人からの申告なら、まずここを確認します
VPSに移して改善するのは、同居している利用者の影響を受けている場合と、契約している処理量の上限に当たっている場合だけです。原因が自社のページ側にあると分かったなら、環境を変えても同じ速さになります。しかも移した後は保守が増えます。
止まる場合も同じです。エラー画面に出ている表示、止まる時間帯、直前に社内で行った変更の3つを記録してから事業者に照会すると、制限に当たったのか、環境側の障害なのかが分かります。ソフトウェア側の不具合か環境側かで切り分けが必要になる構造は、WordPressとノーコードツールの違いはどこに出るかでも扱っています。
共用で足りなくなるのは、性能ではなく「できないこと」が出たときです
共用型から動く理由として妥当なのは、量の不足ではなく、可否の問題が出た場合です。次のような要件が出てきたときは、上位プランでは解決しません。
- 常時動かしておくプログラムが必要になった。受信を待ち受ける処理や、社内向けの小さな業務システムを載せる場合です
- 決まった時刻に走らせる処理の回数や実行時間に上限があり、業務が収まらない
- 取引先のシステムと接続するために、変わらないIPアドレスを申告する必要がある
- 標準では用意されていないソフトウェアや、特定のバージョンが要る
- 1つの契約で複数の事業や顧客のサイトを預かり、それぞれを分けて管理したい
プランの上下は量の話で、ここに並べたものは可否の話です。逆に、容量が足りない、転送量の上限に近い、アクセスの山に耐えられないという要件なら、同じ事業者の上位プランで足ります。型を変える前に、自社の要件が量と可否のどちらなのかを言葉にしてください。
選ぶ前に、社内の体制を3つの条件で確認します
可否の問題が出ていて、VPSが候補に入る段階になったら、機能ではなく体制を見ます。
1. 同じ作業を続けられる人が2人いるか。 1人しかいない状態でも日常は回りますが、その人が休んだ週に弱点が公表されると誰も動けません。引き継ぎの相手がいないことは、作業が難しいこと以上に重い条件です。
2. その作業時間を、業務として確保できるか。 本業の合間にやる前提だと、更新は後回しになります。月のどこで作業するかを予定として押さえられるかどうかで判断してください。
3. その人が抜けたときの引き継ぎ先が決まっているか。 接続に使う鍵、管理者の情報、作業の手順、契約の名義。この4つが個人の手元にしかないなら、抜けた日にサーバーが触れなくなります。
3つとも満たせないなら、選択肢は共用型に留まるか、VPSに管理を付けて外部に出すかの2つです。外に出す場合は、次を文章にしてから契約します。
- 対象範囲。基本ソフトの更新、その上のソフトウェア、証明書、バックアップ、監視のどこまでが含まれるか
- 連絡経路と受付時間。時間外に止まったときにどうなるか
- 障害が起きたときに、最初に動くのがどちらか
- 契約が終わるときに、管理者の権限とデータをどう返してもらうか
外部に権限を渡すと、契約終了時や担当者の交代時に回収する対象が増えます。誰がどこに入れるかを一覧にしておく話は、小さな会社の情報セキュリティはどこから手をつけるかで扱っています。
1人で回している間は、問題は表に出ません。表に出るのは、その人が休んだ週か、辞めた翌月です。
契約する前に確認する項目は、型ごとに違います
比較サイトの表には載らない項目です。共用型で聞くのは、制限に当たったときと、同居する利用者の影響が疑われるときの2場面です。
処理時間や同時接続の上限を超えたとき、上限に当たったこと自体を利用者側から確認できるか(管理画面に記録が残るか、通知が届くか)。ここが見えない契約では、遅い原因が自社のページ側なのか制限なのかを最後まで切り分けられません。同居の影響が疑われるときに、調査や収容先の変更を依頼できるか。バックアップは対象範囲と、復元を自分の操作で実行できるかどうかを見ます。
VPSなら、見る場所が変わります。
初期状態に何が入っているか(素の基本ソフトだけか、設定済みの環境が選べるか)。管理画面から初期化と、ある時点の状態を保存して戻す操作ができるか。事業者が見る範囲がどこまでか(機器と回線までか、基本ソフトが起動するところまでか)。契約を止めたときに、置いてあるデータがいつ消えるか。
どちらの型でも共通するのは、バックアップを「取っているか」ではなく「戻せるか」で確認することです。復旧の目標から逆算する考え方は小規模企業に必要なバックアップはどこまでかにまとめています。
次にやること
決めきれない場合、進め方は同じです。まず、いま困っている症状を1つだけ書きます。遅い、止まる、できない、のどれかです。次に、その症状が量の問題か可否の問題かを分けます。最後に、可否の問題だったときにだけ、体制の3条件を確認します。量の問題なら、そこで検討は終わります。
要件そのものから整理したい段階なら、法人向けレンタルサーバーの選び方に、止まったときの影響から条件を引き出す手順があります。すでに契約しているサーバーから動くかどうかで迷っているなら、サーバー移転はいつ決めるかを先に読んでください。
よくある詰まりどころ
制作会社からVPSを勧められた
保守が契約に含まれるかを聞きます。含まれるなら対象範囲を、含まれないなら誰が担当するのかを確認します。「構築します」と「維持します」は別の話で、前者だけの見積もりに後者は入っていません。
社内の1人がVPSを希望している
技術的には回ります。条件を1つ付けてください。作業手順を文書にして、管理者の情報を経営者側でも参照できる場所に置くことです。この条件を出したときの反応で、引き継げる状態かどうかが分かります。
共用のままで速くしたい
画像の容量、外部から読み込んでいる部品の数、使っていない拡張機能の3つを見直します。契約を変える費用がかからないうえ、後で環境を変えても消えない改善です。
使った分だけ払う形の基盤も候補に入れるべきか
使った量で課金される形は、上限を決めて残量を見る担当が必要になります。人数の少ない会社では、額が読める固定の契約のほうが予算を立てやすく、想定外の請求も起きません。専任の担当を置けるようになってから検討する順番で構いません。