会計・契約・労務

勤怠管理を紙やExcelから移行すべきタイミング

紙やExcelの勤怠管理が壊れるのは人数が増えたときではなく、雇用形態やシフトの種類が増えたときです。移行を判断する条件と、切り替える前に決めておく打刻方法・締め日・承認フローを整理しました。

公開 更新 カテゴリ 会計・契約・労務 読了目安 約9分

この記事の適用範囲

対象
勤怠管理を紙やExcelで行っており、システム化を検討している小規模事業者
読了後の状態
移行が必要になる条件を把握し、自社が該当するかを判断できる状態

月初にタイムカードを回収して、Excelの集計シートに打ち直します。残業時間を出し、休暇の残日数と突き合わせ、給与の締め切りに間に合わせます。ここに打刻漏れが1件混じると、本人に確認し、シートを直し、影響する範囲をもう一度計算し直すことになります。

この状態でも、たいていの会社は「まだ何とかなっている」と判断します。問題は、何とかならなくなる時期が、人数の増加とは別のところで決まる点です。

紙やExcelの勤怠管理は、従業員が何人を超えたら壊れる、という形では壊れません。壊れるのは、働き方の種類が増えたときです。この記事では、その見分け方と、移行すると決めたときに先に確定させる項目を扱います。

限界は人数ではなく、働き方の種類で来ます

従業員が10人に満たない会社でも、正社員とパートと業務委託が混在し、パートは週ごとに勤務日が変わり、一部の人は直行直帰で出社しない、という状況になると集計の手間は急に増えます。一方で人数がその3倍いても、全員が同じ所定労働時間の正社員で、1拠点に出勤し、残業の扱いも共通なら、Excelでも締められます。

理由は、紙やExcelが得意なことと不得意なことの差にあります。同じルールを人数分だけ繰り返し適用する作業には強く、行を増やせば済みます。弱いのは、ルールそのものが分岐する場合です。

分岐は足し算では増えません。雇用形態が3種類、所定労働時間の型が2種類、拠点が2か所あれば、計算のパターンは組み合わせで増えます。シートの中には条件分岐が積み上がり、やがて作った人以外は直せなくなります。この「直せる人が1人しかいない」状態が、集計時間そのものより先に会社の負担になります。

もうひとつ効くのが、実際に働いた時間を確認する手段です。全員が同じ場所に出勤しているうちは、打刻がおかしければ目で気づけます。在宅や直行直帰が混ざると確認できるのは本人の申告だけになり、記録の正しさを後から説明しにくくなります。労働時間の把握と記録の扱いには法令上の求めがあるため、自社に適用される要件は公式情報で確認してください。

移行が必要かを判定する5つの軸

自社がどのあたりにいるかは、次の軸で見分けられます。人数ではなく、運用の性質で並べています。

判断軸 まだ紙・Excelで回る 運用の工夫で持たせられる 移行を前提に考える
集計する人 1人が全員の勤務パターンを覚えていられる 覚えきれず、月末に確認の往復が発生する 集計者が不在だと締められない。シートを直せる人が1人しかいない
雇用形態の種類 1種類で、所定労働時間が全員同じ 2〜3種類。計算式を分岐させれば足りる 新しい雇用条件が出るたびにシートを作り替えている
勤務時間とシフト 始業・終業が固定で、例外は月に数件 週単位で変わるが、パターンは決まっている 変形労働時間制や深夜・休日の扱いが絡み、判定を毎回人が考えている
働く場所 全員が同じ場所に出勤し、打刻を目視で確認できる 直行直帰が一部あり、事後の自己申告で埋めている 複数拠点や在宅が常態で、確認手段が申告しかない
申請と承認 紙と口頭で回り、記録を後から追える 申請が紙とチャットに分散し、集計時に探している 誰がいつ承認したかを後から説明できない

右端の列に1つでも入っているなら、人数が少なくても検討に入る段階です。編集部としては、右端が2つそろった時点で比較を始めることを勧めます。3つ以上そろってから動くと、移行作業そのものを回す余力が残っていないことが多いためです。

真ん中の列に収まっているうちは、急いで移行しなくても構いません。

集計の手間は、人数に比例しては増えません

「何人になったら大変になるか」で考えると判断を誤ります。集計工数を押し上げているのは入力量ではなく、照合と差し戻しだからです。

打刻漏れが1件見つかると、本人への確認、シートの修正、影響範囲の再計算、承認者への再提出が発生します。対象が1人でも、この一連の作業は同じだけ必要です。例外が2件に増えれば工数はほぼ2倍になり、人数の増加より速く効いてきます。

そして、締め日から給与の支払日までの日数は動きません。工数だけが増えると、先に消えるのは確認の工程です。省いた分の誤りは翌月に修正として持ち越され、さらに余裕を削ります。

判断の目安は、時間の長さではなく次の一点で置けます。締め日から支払日までの間に、集計と確認を2巡できるかどうかです。1巡しかできていないなら、誤りが見つかるのは支払後です。ここが崩れているなら、人数にかかわらず移行を検討する条件を満たしています。

移行しないと決めた場合に、先にやっておくこと

いま移行しない判断も正当です。ただし、そのまま置くのと、次の作業を済ませておくのとでは後の差が大きくなります。以下はすべて、将来移行するときに要件の材料としてそのまま使えます。

  • 入力用のシートと集計用のシートを分ける。1枚で入力と計算を兼ねていると、誰かが式のセルを上書きした瞬間にどこが壊れたか分からなくなります。
  • 締め日を1つにそろえる。雇用形態ごとに締め日が違うと集計が2系統になり、移行時も2系統のまま持ち込むことになります。変更するなら、対象者への通知と、切り替え月に生じる端数期間の扱いを先に決めます。
  • 例外処理を式の中に埋め込まない。「この人だけ別計算」を関数で処理すると、条件がシートの中に隠れます。備考列に理由を文章で残し、計算は人が判断する形にしておくほうが、引き継ぎも移行も楽になります。
  • 元データの保存場所と保存期間を決める。保存の期間や方法には法令上の定めがあるため、要件は公式情報で確認してください。
  • 例外が何件出たかを月ごとに数える。打刻漏れ、事後修正、締め後の変更の件数です。

最後の1つは、費用をかけずに続けられて、「何となく大変」という感覚を経営者に説明できる材料に変えます。

移行のときに先に決める3つ:打刻方法・締め日・承認フロー

サービスを比較する前に、この3つを自社で確定させます。決めないまま比較を始めると機能表の項目数で選ぶことになり、導入後に運用が合わないと分かります。ツールが定着しない会社に共通する構造は、ITツールの導入で失敗する会社に共通することで扱っています。

打刻方法

働き方によって、成立する方法が変わります。

判断軸 PC・ブラウザ打刻 個人のスマートフォン 共有端末(ICカード・タブレット等) 紙・タイムカードを継続
向く働き方 全員が業務でPCを使う内勤中心 直行直帰や現場移動が多い 出入りはあるが私物端末を使わせたくない 勤務パターンが単純で人の入れ替わりが少ない
実際の勤務との近さ 業務開始とずれることがある 位置情報を併用すれば場所は確認できる 入退場の実態に近い 打刻機の前で待つ時間の扱いが曖昧になる
導入時の手間 アカウントの配布が中心 私物端末の利用可否と通信費の扱いを先に決める 設置場所と台数、故障時の代替手段を決める 追加の手間はないが、負担は集計側に残る
つまずきやすい点 打刻せずに作業を始めてしまう 端末の機種差、通信が届かない現場 混雑時に列ができる、代理打刻が起きる 修正の履歴が残らない

位置情報を使う場合は、取得することと利用目的を就業規則や社内規程の側で先に整理してください。技術的に可能かどうかより、こちらのほうが導入を止める要因になります。

締め日

勤怠の締め日と給与計算の締め日をそろえます。ずれていると、勤怠側で確定した数字をそのまま給与側に渡せず、移行しても手作業が残ります。

締め日を変更する場合は、切り替え月に必ず端数の期間が生じます。この期間をどちらの月に含めるか、対象者にいつ通知するかを、移行スケジュールを引く前に決めます。

承認フロー

紙の運用では、残業や休暇の申請が事後の口頭で済んでいることがあります。システムに移すと申請と承認が記録に残るため、事前申請が実際には機能していなかったことがここで表面化します。

決めるのは3点です。誰が承認するか、承認者が不在のときに誰が代われるか、「打刻の修正」と「残業・休暇の申請」を別の経路にするかどうか。承認者が1人だと、その人の出張中に締めが止まります。小規模な会社ほど、代理承認者を先に決めておく必要があります。

給与計算との連携はどこまでやるか

勤怠と給与のつなぎ方には、実質的に3段階あります。

  1. 勤怠側で集計した結果を、給与側に人が転記する
  2. 集計結果をファイルとして書き出し、給与側に取り込む
  3. 勤怠と給与を同じ系統でつなぎ、確定と同時に反映する

最初から3を目指す必要はありません。勤怠側の締めが安定しないうちに自動でつなぐと、勤怠側の誤りがそのまま支給額に流れます。移行直後の1〜2か月は、旧方式と突き合わせられる形にしておくほうが安全です。

判断を先に縛るのは、外注先の受け取り形式です。給与計算を社労士や税理士に依頼している場合、どの形式なら受け取れるか、どの項目が必要かは相手側の運用で決まっています。ここを確認せずにサービスを選ぶと、書き出した後に人が形を作り直す工程が残ります。比較を始める前に「いまの提出形式のまま受け取れるか」を聞いてください。

会計側との連携も同時に考えたくなりますが、勤怠から給与、給与から仕訳という順に確定するものなので、会計ソフトの選定は分けて進めるほうが混乱しません。会計側の判断基準はクラウド会計ソフトを選ぶときの判断基準にまとめてあります。そもそも勤怠管理が必要な段階かどうかから整理したい場合は、ひとり法人に本当に必要なITツールを先に読んでください。

切り替える時期は締め日を基準に決めます

月の途中で切り替えると、その月だけ2系統の集計が必要になります。新方式の開始は、締め日の翌日にそろえてください。そのうえで、次の条件を外して時期を選びます。

  • 繁忙期と重ならないこと。移行直後は打刻漏れと問い合わせが増え、現場に説明する時間が要ります
  • 入退社が集中する月の直前を避けること。初期設定と入社手続きが重なると、どちらも雑になります
  • 並行運用の期間を1〜2か月見込むこと。この間は両方の作業が発生し、工数は一時的に増えます。ここを見込まずに始めると、現場から「前のほうが楽だった」という反応が出ます

制度改正や自社の体制変更を待って先送りする判断は、慎重に扱ってください。待っている間に発生する集計工数は戻らず、待つ理由は毎年新しいものが見つかります。契約前に確認しておく条項の考え方は、小規模企業のITツールの選び方で扱っています。

よくある詰まりどころ

打刻はされているのに、集計が合わない

多くは、休憩時間の扱いと、日をまたぐ勤務の扱いが設定と実態でずれています。移行前の3か月分を新方式で再計算し、旧集計と突き合わせてください。差が出た箇所が、設定を直すべき箇所です。

現場が打刻を忘れる

忘れる人を注意しても再発します。打刻の動作が、業務の開始動作と別になっているのが原因です。PCを開く、店舗の鍵を開けるといった必ず行う動作と同じ場所に打刻を置けないかを検討します。それでも残る分は、修正申請の手順を簡単にしておくほうが現実的です。

移行したのに紙も続いている

並行運用の終了日を決めていない場合に起こります。終了日以降は紙を受け取らないと明示してください。受け取り続けると紙のほうが正になり、二重管理が固定化します。

承認が滞留して締められない

承認の判断基準が承認者の中にしかない状態です。何を見て承認するのか(申請と打刻の一致、時間の上限)を1行で書き出し、代理承認者と共有してください。

工数が減った実感がない

移行の効果は、平均作業時間より、月末に集中していた時間の分散に出ます。総時間ではなく「締め日から確定までの日数」と「事後修正の件数」を、移行前と同じ方法で数え直してください。移行前から件数を記録していれば、この比較はその月のうちにできます。