会計・契約・労務

クラウド会計ソフトを選ぶときの判断基準

クラウド会計ソフトの条件は、機能の数ではなく誰が入力し誰が確認するかで決まります。顧問税理士の対応状況が最大の制約になる理由、自動連携が効く事業形態、乗り換えで発生するコスト、契約前に確認する項目を順に整理します。

公開 更新 カテゴリ 会計・契約・労務 読了目安 約8分

この記事の適用範囲

対象
会計ソフトの新規導入または乗り換えを検討している小規模事業者
読了後の状態
自社の記帳体制に照らして必要な条件を決め、候補を絞れる状態
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月末に通帳とカードの明細を印刷し、領収書の束と突き合わせてから税理士に渡す。この手順を変えたくてクラウド会計を調べ始めると、口座の自動連携やレシートの読み取りといった説明が最初に出てきます。作業が半分になりそうに読めますが、実際に減るかどうかは、そこに書かれていない条件のほうで決まります。

書かれていない条件とは、自社の記帳体制のことです。会計ソフトが使えるかどうかを決めるのは、機能の数ではなく、誰が仕訳を入力して誰がそれを確認するかという体制です。経理担当者が毎日触る会社と、月末に社長がまとめて入力する会社では、同じソフトでも必要な条件が違います。

そして小規模事業者の場合、最大の制約はソフト側ではなく顧問税理士の側にあります。税理士が対応していないソフトを選ぶと、月次の受け渡しがそのまま手作業に戻ります。この記事では、候補を絞る前に自社側で固定しておく条件を、確認する順番で扱います。

会計ソフトに求める条件は記帳体制で決まる

小規模事業者の記帳体制は、おおむね3つに分かれます。自社で日々の入力まで行い税理士には決算だけ頼む形、自社が入力して税理士が月次で確認する形、証憑を渡して記帳自体を依頼する形です。

このどれに当てはまるかで、ソフトに求めるものが変わります。

自社で入力し、税理士は決算のみ 自社で入力し、税理士が月次で確認 証憑を渡して記帳を依頼
契約名義 自社。税理士には閲覧だけ渡せば足りる 自社。税理士用のアカウントが別に要る 税理士側の契約に相乗りする場合がある
操作性で効いてくる点 簿記の知識がなくても仕訳を起こせるか 誰がいつ直したかの履歴が追えるか 自社側はほとんど画面を触らない
自動連携の価値 高い。入力工数がそのまま減る 高い。ただし勘定科目のルールを誰が決めるかを先に定める必要がある 低い。証憑の受け渡し方法のほうが効く
詰まりやすい点 決算直前に科目の付け間違いがまとめて出る 修正権限が曖昧だと自社と税理士で二重に直す 依頼の締切に間に合わず月次が遅れる

3つ目の記帳代行を選んでいる場合、ソフトの選定はほとんど税理士側の都合で決まります。自社で比較する意味が出てくるのは、上の2つのどちらかに当てはまるときです。

法人化したばかりで体制自体がまだ決まっていない場合は、ひとり法人に本当に必要なITツールで、義務から逆算した最小構成を扱っています。会計ソフトはその最小構成に含まれますが、先に決めるべきは誰が記帳を持つかです。

顧問税理士に確認する3つのこと

税理士に確認する前にソフトを契約すると、決めたことをやり直す可能性があります。確認は次の3点で足ります。

  • どのクラウド会計に対応しているか。事務所として日常的に使っているものと、対応はできるが不慣れなものは分けて聞きます。後者を選ぶと、質問への回答が遅くなります
  • 税理士側のアカウントをどう用意するか。閲覧だけでよいのか、修正まで行うのか。修正まで頼む場合、アカウント課金のソフトでは自社の負担が1人分増えます
  • 月次で何を渡す想定か。ソフト上で完結させるのか、通帳や領収書の写しを別途送るのか。ここが曖昧なままだと、ソフトを入れても紙のやり取りが残ります

対応していないと言われた場合、取れる道は3つです。税理士が使えるソフトに合わせる、自社で入力から申告まで完結させて税理士の関与を減らす、税理士を変える。3つ目は会計ソフトの都合だけで決める話ではないので、まず1つ目と2つ目を比べます。

税理士に合わせて不便を感じるのは、たいてい自動連携の設定を自社で自由に変えられないときです。その不便が月に何時間の作業に相当するかを見積もってから、変更するかどうかを判断してください。

記帳の分担を決めてからソフトを見る

体制が決まっていても、分担が決まっていないケースは多くあります。分担とは次の3つを誰が持つかです。

  1. 取引を入力する人
  2. 勘定科目と補助科目を決める人
  3. 締めた数字を最終確認する人

小規模な会社では1と2が同じ人になりがちですが、同じ人が持つと決めているのか、なんとなくそうなっているのかで結果が変わります。なんとなくの状態でソフトを導入すると、自動連携で取り込まれた取引に誰も科目を付けず、未処理の一覧だけが増えていきます。

3の最終確認は、社長が持つのが現実的です。金額の妥当性を判断できるのが社長しかいない会社では、確認を税理士に任せても、税理士は「この支出が事業に必要か」までは判断できません。

分担を決めずに入れたツールがどうなるかは、ITツールの導入で失敗する会社に共通することで構造として扱っています。会計ソフトは義務があるため使われなくなることはありませんが、使われ方が入力代行の道具に留まり、集計や分析には使われない状態になります。

自動連携が効く事業と、効きにくい事業がある

銀行やカードとの連携は、どの事業でも同じだけ効くわけではありません。効き方は、取引がどこを通っているかで決まります。

事業の形 連携で確実に減る作業 連携では減らない作業 先に手をつけること
法人向けで取引先が少数、請求が月次固定 入金の消込、経費のカード明細の取り込み ほとんど残らない そのまま連携を設定してよい
店舗・現金売上が中心 仕入と経費の記録 日々の現金売上の記録と現金残高の管理 レジや売上日報との突き合わせ方法を決める
個人客が多く決済手段が分かれる 決済サービスごとの入金の取り込み 手数料と売上の分離、返金・キャンセルの処理 入金明細がどの粒度で届くかを確認する
立替払いや小口現金が多い 社用カード分だけ 領収書の回収と、誰の立替かの紐付け 経費精算の運用ルールを先に作る

現金の比率が高い事業では、連携の効果はあまり出ません。この場合に会計ソフトへ期待すべきなのは入力の自動化ではなく、売上の記録が漏れていないかを後から確認できる形にすることです。

もう1点、連携は取引パターンが繰り返されるほど効きます。同じ取引先からの入金、同じ内容の経費は、一度科目を決めれば次から自動で提案されます。逆に、取引ごとに科目が変わる事業では、提案を毎回直すことになり、手入力とほとんど変わりません。導入前に、直近1か月の取引明細を見て、繰り返しの取引が何割を占めるかを数えてみてください。

乗り換えるときに発生するコストは移行作業だけではない

すでに何らかの会計ソフトを使っている場合、乗り換えの判断には移行の負担を含めます。負担は4か所に出ます。

年度の途中で移すと期中の残高を合わせる作業が発生します。 期首から移すのが原則で、それ以外の時期に移すなら、移行日時点の残高をどう引き継ぐかを税理士と決めてから作業に入ります。

過去データの参照方法を決める必要があります。 移行できるのは残高や科目の設定までで、過去の仕訳明細や添付した証憑がそのまま移るとは限りません。旧ソフトを一定期間は解約せずに残す、必要な帳票をファイルとして書き出しておく、といった手当てが要ります。書き出したファイルの保管先も決めておかないと、数年後に見られなくなります。データの保全全体を見直す場合は、小規模企業に必要なバックアップはどこまでかを参照してください。

税理士側にも作業が発生します。 事務所として初めて使うソフトなら、確認の手順を組み直す時間がかかります。乗り換えを決める前に、いつ移すかを含めて相談しておきます。

入力する人が操作に慣れるまでの期間があります。 画面の構成が変わると、これまで数分で終わっていた作業が最初の1〜2か月は倍かかります。決算期や繁忙期と重ならない時期を選んでください。

これらを足したうえで、それでも移る理由があるかを確認します。料金差だけが理由の場合、移行に費やす時間の人件費で差が消えることがあります。

契約前に確認する項目

料金表の月額だけを見て決めると、使い始めてから条件が違うことに気づきます。契約前に確認する項目は次の通りです。

  • 利用人数の制限と課金単位。1契約で何人が使えるか、追加は1人単位か。税理士のアカウントが人数に含まれるかどうかは、必ず個別に確認します
  • サポートの範囲と手段。操作方法の質問には答えるが、会計処理そのものの相談は対象外という区分が一般的です。問い合わせ手段(チャット、メール、電話)と受付時間、上位プランでないと使えない手段があるかを見ます
  • 追加費用が発生する機能。請求書発行、経費精算、給与計算などは別契約や上位プランになっていることがあります。いま必要でなくても、1年後に使う可能性があるものは料金の並びを見ておきます
  • データの持ち出し形式。解約時に何をどの形式で出力できるか。解約後にデータを閲覧できる期間があるかどうかも確認します
  • 電子帳簿保存法への対応状況。自社が扱う書類のうち、どれが対象になるかは事業によって違います。要件そのものは公的機関の情報と顧問税理士に確認したうえで、ソフト側の対応範囲と照合してください

給与計算や勤怠との連携を検討している場合は、会計ソフトの選定と同時に決めないほうが進みます。勤怠側には人数や雇用形態による別の判断軸があるため、勤怠管理を紙や表計算から移行すべきタイミングで条件を確認してから、連携の要否を判断してください。

会計に限らず、社内で使うツール全般の選び方や契約条項の読み方は、小規模企業のITツールの選び方にまとめています。

次にやること

候補を絞る前に、次の4つを埋めてください。ここが埋まれば、比較表を見る時間は大幅に短くなります。

  1. 顧問税理士に、対応しているソフトとアカウントの扱いを聞く。メール1通で済みます
  2. 記帳の3つの役割(入力・科目の決定・最終確認)を、名前を入れて書き出す
  3. 直近1か月の入出金明細を開き、繰り返しの取引が何割かを数える。半分を超えるなら自動連携の効果が期待できます
  4. 乗り換えの場合は、移行する時期の候補を期首を基準に2つ挙げる

よくある詰まりどころ

税理士から特定のソフトを指定されたが、料金が高い

指定の理由を聞いてください。事務所の確認手順がそのソフトを前提に組まれている場合、変更すると税理士側の作業が増え、顧問料に跳ね返ることがあります。ソフトの料金差より顧問料の差のほうが大きくなることもあるため、両方を並べて比べます。

無料プランで始めたが、途中で足りなくなるか不安

無料や下位プランで制限がかかりやすいのは、仕訳の件数、利用人数、連携できる口座数のいずれかです。この3つについて、いまの数字と上限を照らし合わせておけば、いつ上位に移る必要が出るかは事前に分かります。

自動連携を設定したのに手作業が減らない

取り込まれた明細に科目を付ける工程が残っているだけの状態です。同じ取引先・同じ内容の取引にルールを登録すると、2か月目から差が出ます。1か月分の明細で、件数の多い上位10件の取引にだけルールを付けてみてください。

過去の帳簿を見返す機会がほとんどない

見返さないのであれば、乗り換え時に過去データの移行へ時間をかける必要はありません。ただし、税務調査や融資の審査で求められる可能性はあるため、閲覧できる形で残す手段だけは確保しておきます。